『トップガン マーヴェリック』(レビュー)の監督であるジョセフ・コシンスキーはゲーム『Gears of War』の大人気トレーラーにてキャリアをスタートさせている。この事実は以前の記事でも書いてあり、有名な話である。
なんか各所で絶賛されている『トップガン マーヴェリック』だが(俺はまだ見てないよ←後日追記:見た。感想を雑多Blogのほうに書いたよ)、監督のジョセフ・コシンスキーはギアーズの「Mad World」トレーラー作った人だったのか! 知らなかったよー。大作ゲームで(実際のゲーム内容と直接的には関係ない)エモいイメージトレーラー作るブームの先駆けだよね。
2006年リリースの『Gears of War』は発売前から全世界的に大きな期待を集めていて、Unreal Engine 3を使った初のコンソールゲームとして同時代のタイトルから頭ひとつふたつ飛び抜けた美しいグラフィックと、「カバーリング」という目新しいフィーチャーを使った新鮮なプレイフィールがコアゲーマーには早い段階から注目されていた。コアではない一般ゲーマーにはストレートに「大作SFアクションシューター」な感じのPRがされていたと思うが、それらとはさらに別にこの「Mad World」という曲を使った叙情的で印象に残る短いトレーラーがマス向けのティザー広告として投入された……という流れだったはずだ。どうやら主にはTV CMらしいが(2006年当時はまだまだネットでの動画公開と拡散はハードルが高い。なにせYouTubeがやっと前年にサービスインしたばかりだ)redditの書き込みを読むにアメリカでは映画館でも流れたらしい。
冒頭のIGNの記事には2015年のリマスター版『Gears of War』のプロモーションで使われた「Mad World」トレーラーのリメイクも貼られている。俺はこのリメイク版トレーラー見たのは初めてだったのだが、これは形だけ似せて大事なところはぜんぜんわかってないダメなトレーラーだなあ。シーンのチョイス、ショットの繋がり、編集のリズム……見比べてみるとダメさが際立つ。とりあえず「Mad World」かけときゃ懐かし喚起で勝てるやろ! という安易さが伝わってくるよ……。
ところで、ギアーズの「Mad World」トレーラーが話題になったのは2001年の映画『ドニー・ダーコ』が当時すでにカルト的な人気があったことも理由のひとつだと思うんだがどうだろうか。
「Mad World」は元はTears for Fearsの曲で、リリースされた1982年イギリスの空気感濃厚なちょい陰鬱系シンセポップだったわけだが、それを歌詞の内容により踏み込んで鬱味マシマシでテンポを落としてピアノアレンジしたゲイリー・ジュールズのバージョンが『ドニー・ダーコ』で印象的に使われた(歌詞的にも映画の雰囲気にぴったりすぎるくらいぴったり)。ミシェル・ゴンドリーが監督したPVも有名だ。ギアーズの「Mad World」トレーラーで使われてるのもこのゲイリー・ジュールズがアレンジしたバージョン。
『ドニー・ダーコ』は、精神的に不安定な主人公の高校生が巻き込まれる現実とも妄想ともつかない出来事と日々の鬱屈、そして「世界の終わり」を一筋縄ではいかない語り口で描いた映画だ。ダークな青春映画であり、同時代の日本オタク文化の流行り言葉で言うなら「セカイ系」に似た味わいのある作品である。いわゆる「わかりやすい映画」「よくできた映画」ではないため一般的な知名度はともかく、2001年の公開当時から主人公と年齢や境遇が近い人には静かに、だが熱狂的に受け入れられるというところはあった。
つまり、ギアーズはあの「Mad World」トレーラーによって「ゴリラみたいなマッチョが馬鹿デカい銃を撃ちまくるゲームだが、『ドニー・ダーコ』の主人公みたいに鬱屈した毎日を送ってるお前らのための作品なんだぜ、こいつは」という文脈を作ることに成功したんじゃないかなーと思うんだよね。
まあ実際のゲームは別にこのトレーラーで期待されるような陰鬱エモみたいな雰囲気はぜんぜんないんだけど。エモ味はないけど陰鬱さは全編を覆っているので、まったく違うとまでは言わないが。むしろ『Gears of War 2』の一部のシーンでの悲痛で絶望的なエモ演出(ドムの再会のとこ)はこのトレーラーに引きずられてあんな感じになったんじゃないかという気もする。そうでもないかな。それは牽強付会かな。言い過ぎかな。どうなのかな。
ところでクリフBは最近何やってるのかしらん。